3D道案内

文庫サイズのポケット地図を、よく持ち歩いていた。

どこへ行くにも、まずは目的地の住所を確認し、その地図で行き方や道順を検討していた。

僕の主な行動範囲は都内だったので、東京都を対象範囲として編集された地図が一冊あれば、だいたい事足りた。

そのポケット地図は、今は持ち歩かなくなり、家の本棚に安置され、長いこと触れていない。

二つ折りの携帯電話から、スマートフォンに買い替えたからだ。正確に覚えていないが、5年くらい前のことだったと思う。

スマートフォンで、世界中の地図が見られる。拡大、縮小もできるし、ページに隔てられることなく、どこまでも地続きに見られる。

道順も、自分で考えなくても検索できてしまう。所要時間もだいたいわかる。

目的地が立つと、まずは検索。すぐさま最適解らしきハウトゥゴーが得られ、考えることなく終了。そんなことも多いだろう。

行き方や道順の候補、案内、例示がすぐさま得られるのは本当に便利だ。

ただ、すべての人のすべての条件にマッチする最適解では決してない。どんなときも、それを自分が実際に用いるときには、細かな修正やカスタマイズがいる。

グーグルマップさんは所要時間15分だというが、道が混んでたらそんなに早く歩けるのか?とか、欧米人の足の長さで試算した所要時間なんじゃないかとか、疑いたくなるような時もある。

なにごとも鵜呑みにはできない。

一度、東京都多摩地区の自宅から、横浜中華街まで歩いてみたことがある。道順をグーグルマップに頼って歩いた。

徒歩だと、単純に直線距離に近い道順が提案される。神奈川県の住宅地を歩いているとき、延々と小高い丘をいくつもいくつも登っては降り、を繰り返した。

疲れてきた頃に、坂を降りるやいなや、また立ちはだかるドすごい登り坂をグーグル先生が示したとき、さすがに「先生、高低差を考えてくれよ」と、スマホ画面の平面地図に表示されない立体情報の重み、その大きさを実感した。

実験をするような気持ちで、ひたすら案内に従うとどうなるかを楽しんでもいたから、その時はそれで良かった。

誰もが目をつぶってでも歩けるような、完璧な道案内というのは、なかなか難しい。これで合っているのだろうかと、不安になるポイントも人それぞれ違うだろう。そういったすべての不安の芽を摘み取るような道案内をしたら、膨れ上がって、見る気もしないような「利用規約」とか「契約書」みたいになってしまうだろう。

そんなものなくても、歩けるのが人間だ。

自分に頼った歩き方をしようと思う。