白磁器の天球

舞台の上で、適当なことをしゃべった。


大柄な人と、小柄な人が舞台上にいた。


たぶん僕の知り合いで、多少の失礼をはたらいても怒らない。


僕は大柄と小柄の2人に適当な名前をつけて、呼んだ。


即興劇のはじまりだ。


お客の反応は悪くない。そこそこ受け入れられている。僕は少し、調子に乗った。


場面転換も自由におこなうことにした。


物語のはこびも適当でよい。


僕の口がすべった通りの場面転換ができるから、物理的な人や物の往来を心配する必要はない。


ふと客席をみると、お客はいつのまにか少数精鋭になっていた。こちらの問いかけに対して、積極的に挙手で応じてくる。みな、中学校の制服を着ていた。ここは学校の体育館だったらしい。


雰囲気がうちとけてきて、いろんな声が重なる。僕はのどがせまくなって、声が通らなくなった。注意を喚起してから小さな声でせりふを言ったら、きちんと伝わった。もちろん、今つくった出まかせのせりふだ。


即興劇は、おもしろい。


役者の醍醐味を、味わった。




りんりんりんりんりん


りんりんりんりんりん




鈴虫の声がした。


いまは上演中なんだけどな。


仕方なく僕は声の主のもとへ行く。


そっと声の主に触れると、鈴虫は鳴きやんだ。


鈴虫は、結線されていた。そのからだを持ち上げて、結線から解いてやる。キッチンの方へ連れ出してやることにした。


プラスチックのやかんに水を汲み、親指で指示をした。


指示を受けたやかんが仕事をはじめる。


僕はその間に別の仕事をした。小さなプラスチックの包みを破き、中に入った灰色の粉を、真水に溶かした。ひとまわし溶液をかきたててから、それを下水管に流した。


そうこうしているうちに、やかんが仕事を終えた。


僕は上のフロアから白磁器を出してきて、ステンレスボードの上に投げ出した。それから三角のテントの扉を開く。蚊帳の中に、植物の葉を乾燥させたものが黒く縮こまっている。摘み取る前は、どんな色をしていたのだろう。僕も、摘み取られたら、縮こまって、こんな色になるんだろうか。そいつを掴んで、白磁器の中に放り投げた。


やかんの仕事の成果物が、じゃばじゃばと降り注ぐ。躯体の中の、良いものも悪いものも、みんなじんわりと溶け出した。


ほんの少しだけ、摘み取られる前の色を取り戻す。


躯体がふやけて、蚊帳のなかで膨れ上がった。


黒ずみは、溶けて流れた。


縮こまった躯体が、解き放たれる。


しばらくのあいだ、そのまま静かにしていた。


いつの間にか空が白んでいた。


誰かが大きな白磁器を、僕らの上に被せたみたいだ。