Shuttered

いっせいにさく、ソメイヨシノ。これに似たようなものが、他の国にあるだろうか。


ソメイヨシノの木は、田舎よりもむしろ都市部にたくさんある。人の手で、人が眺めるために植えたからだろうか。きっと観賞用に生み出された品種なのだろう。


歩いて移動できる範囲にある同じ品種の桜でも、日当たりが違えば咲くタイミングが違うことがあるようだ。もっといえば、東京と北海道では咲く時期がまるで違うだろう。僕は北海道で桜を見た経験はないけれど。1年中、とまではいえないが、日本中のどこかで咲いている何かしらの種を追いかけ続ければ、ある程度幅を持った時期に楽しめるのが、桜である。


そんなふうにあちこちに、特に人の多く集まる場所に多く植えられた桜が国中で咲きまくるのはさながらお祭りで、観光客の目には珍しく貴重な光景として映るかもしれない。32年間この国で暮らしてきた僕でさえ、咲いている桜を、いちいち無防備な面構えで見上げてしまう。低いところにも枝があることもあって、目線と同じ高さか、それより低いところでも楽しめる場合もある。犬とか幼児とかは目線が低いが、高低差の激しい地形を持った都市部を狙ってさがせば、体高のない者でも近くに桜を写しこんでシャッターを切れる場所もあるだろう。


あれだけのまとまった個体数が咲けば花の匂いもかなり漂うもので、花粉症の僕はいつもマスクを着けたまま街中を移動しているが、マスクを着けたままでもわかるくらいの匂いがところどころ漂っている。そういうときはおおむね、わざわざマスクをずらして、匂いを強く感じてみるのである。


ああ、春だなぁ。なんて思うこともないのだけれど。


季節を示す記号として、ビジネスの世界で商品のネタとして用いられることも少なくない桜である。


昨日は、ある大学の農学系の研究がおこなわれている土地を訪れた。敷地の中に桜の木が並んでいるのが外から見えた。非公開日だったので、敷地内には誰もいなかった。地面に生えた草が黄緑いろのじゅうたんのようで、その上にうすピンク色の花びらが散って、ふわふわと匂いが漂い、ひらひらと絶え間なく花びらが落下する様子に立ちあえて、つかの間、僕は悦に入っていた。


人が多く訪れる場所に植えられがちな桜を、人がいないときに見るというのが僕のお気に入りのひとつになった。そんな体験だった。


お読みいただき、ありがとうございました。