ぼくの知らない金曜日

ぼくは金曜日、寝坊をしなかった。いつもと同じ時刻に起きた。ぼくはいつも早起きなのだ。それを早起きといっていいのか正直、迷う。いつも、迷っているのだ。いや、いつもは迷っていないけれど、たまに迷うくらいだ、といっていいのかどうか迷う程度にはよく迷う。


ぼくは金曜日、動物園に行かなかった。水族館にも行かなかったし、美術館にも行かなかった。漫画をしこたまは読まなかったし、文章の多い本をしこたま読みもしなかった。じぶんが文章をしこたま書くこともなかったし、読みたかった雑誌を手当たり次第に読みふけることもなかった。映画館にも行かなかったし、遠くのあこがれの店でランチをすることもなかった。バスにも乗らなかったし、どこに行こうか考えて結局どこにも行けないということもなかった。芝居も演劇も観なかったし、複数のお店をめぐることもなかった。根気のいる仕事をまとめて片付けたかったけれど、まとめて片付けることもできなかった。仕事が終わったあとのじぶんがやりたいことのうち、もうそろそろ一区切りつけたいなと思っていることも一区切りつくところまではいかなかったし、カフェにも行かなかった。旅行にも行かなかったし、本屋にも行かなかった。行きたかった銀行も閉まってしまう時刻までに行くことはできなかった。こどもとじっくり遊ぶこともなかったし、手のこんだ料理をしこたまつくって食べることもなかった。湯船のなかで時間を気にせずゆっくりと意識を解き放つこともなかったし、寝る前にハーブティーを飲むこともなかった。


きっとぼくの金曜日には、それ以外のなにかがあったのだ。


こんど金曜日に会ったらば、またぼくの知らない金曜日だといいのだけれど。


お読みいただき、ありがとうございました。