絵の作者におひねりのひとつでも渡せたら

『ブルーピリオド』という美大を受験する主人公を描いた漫画があるのですが、その中で、美術の素人に近い主人公に対して登場人物が「買いつけごっこ」という鑑賞法を提案する、というシーンがあります。私も美術においてまったくの素人ですので、なるほどなぁとためになった気持ちでいました。自分の手持ちのお金と交換するならばという目で絵を見ると、その絵のすごさやありがたさをどれくらい自分が感じているかを知る目安になりそうです。


自分がそのものにどれだけの価値を感じるか。それって、たとえば今日や明日を生きる為の野菜や肉や穀物やらを買う際にならば頻繁に検討をしているのかもしれませんが、美術だとか芸術だとか文化的なことだとか、一見その日を生き永らえるための急務ではなさそうなものごとに対して、その検討をするのを放棄してしまいがちな自分がいます。ある美術作品だとかを、自分の家だとか、普段出入りしている馴染みの場所に持ってきたときにどう見えるか、というのを考えるのは、じぶんとその作品との接点を想像するヒントになりそうです。


美術館で作品を見ると、無意識に距離をつくってしまいがちです。きっと、美術館という場所が私にとって非日常だからなのだと思います。美術のことをよくわかっている人が作品を選んでてきて、立派に見えるように工夫をこらしていることが、かえってその距離をつくってしまっているのかもしれません。「よく分かっていない人」が見ても、だんだんとその世界に入っていけるように、構成や順序立てに工夫がなされた展示もあることと思いますが。


絵を描いたその人も、やっぱり海のものとか山のものとかを食べて、私と同じようにして「生きた人」なのだということを感じられると、その作品と自分との「接点」を感じられるかもしれません。美術の教科書に載った「平べったい」かたちで知っていた作品に実際に「会って」、絵の具が立体的に盛り上がってこびりついたさまなどを見ると、そこではじめてその作品と、その作者とお知り合いになれたかのように思うのです。


お読みいただき、ありがとうございました。