36.8

滅多なことで熱を出さない私なのである。


ゴホッ。ズリ、ズリリ。うん、喉がおかしい。鼻づまりがひどくて息がくるしい。風邪か? アレか? はやりのコロナなのか? 熱はどうだ? うん。平熱。


私は、滅多なことで熱を出さない。むしろ、からだの具合が悪いことを簡単に、具体的に、見紛うことなくはっきりと証明してくれるのが、体温計が示すその数字でありがちなことから、「むしろ、熱、出てくれよ。そのほうがわかりやすいからさぁ。」なんて思う。それくらい、私は滅多なことで熱を出さない。


368分。これが私の平熱である。ちょっと高めなんだろうか。わからないけど、仮に「ちょっと高め」だとすると、そのことが、「滅多なことで熱を出さない」ことと関係あるのだろうか? いつもちょっと高いので、菌を殺しやすい、とかあるのだろうか? だとしたら、からだが天然殺し屋さんじゃないか。なんかかっこいいなオイ。いや、かっこよくないか。むしろ、くそダサいか。なんだよ天然殺し屋さんって。何を殺すんだよ。菌とかウイルスだろうけど。


とか言ってるくせに、すぐ、喉がおかしいの鼻が詰まったの言い出す私である。言い出しただけならまだいいが、実際に喉がおかしくて鼻水が詰まったり流れたりするのだから、難儀である。一生喉も鼻もおかしくならないボディをいくらで買いますか? と言われたら、うーんそうだなぁ、それくらいのシロモノならば1億くらい出すかと思う私もいるし、「いや、100円でもいらねぇ」と思う私もいる。「100円を下に見てないか? 100円に謝りなさい!」とかいうワケのわかんないお母さんキャラの崩壊したのみたいな私もいる。


実際、正直、そんなボディいらないというのが私の結論でもある。風邪ひきやすくても、転びやすくても、バカでもアホでもとんちんかんでも、私は私のからだと付き合っていかなきゃならないのである。それを放棄するもんじゃない。まして、お金を払って捨ててどうするんだ? という考えなのである。


喉が痛い、鼻が詰まる・流れるは正直、難儀に違いない。でも、そこから逃れていいもんじゃない。なんで風邪ひいたんやー! オレのアホウ。と、直近の自分の生活態度を悔いたり、あるいは、起こってしまった事態はしかたないので、今どうするか。コップでぐいと水を飲んでカっと寝るに限る! などと、試行錯誤ともいえないトライアンドエラーをギブアンドテイクでホームアンドアウェイなのか(消失)。


そう、手がかかるんだよ。手がかからないものなんてねぇんだよ、と思う。手がかからない超即席カンタンハイコストパフォーマンスのパーフェクトクオリティ! は存在しないのである。さっきからカタカナ語がうるさいな。薮からスティックか。


何が言いたいかというと、言いたいことはないのだが、つまり、手をかけたぶんが人生なのである。喉がいたいから、自分ではちみつレモンをつくって飲んでみた、でもいいじゃないか。風邪をひかなかったら、はちみつレモンを自分でつくって飲もうなんて思わなかったかもしれない。もちろん、風邪をひくことなしに思い至る可能性だってないわけじゃないけれど。風邪ひきやすいからといって、人生が総じてマイナスに傾くわけじゃない。風邪ひきやすいなら、風邪ひきやすいなりの手間暇があり、人生があるだけなのである。風邪ひきにくい人生があったとしても、そこには風邪ひきにくいなりの難儀や幸福が待ち受けている。それだけなのである。で、そんな人生をとっかえひっかえ選びたい放題だとか切り替え放題だなんて話は、映画か漫画か小説か何かの中で起こるのがせいぜいで、やっぱり今日の私は昨日の私の延長上にあるそれとして目を覚ます。


おいおい、熱出さないって話はどこへいった? もういいよな、また今度で。



お読みいただき、ありがとうございました。



青沼詩郎